醸造蔵の承継

【日本の伝統産業との関わり】

 

ある酒蔵は新潟のなかでも豪雪地帯にあります。豊富な雪に恵まれ、日夜こんこんと水が湧き上がってくる。日本酒の仕込み水は当然ながら、米を洗うところから湧水を使うという贅沢さです。

これは、奇を衒ったものではなく、自然に恵まれた醸造蔵では当たり前のこと。そして水とともに生きる醸造蔵は、自然に負荷をかけることを嫌います。ポンプで汲み上げるのではなく、夜間に流れ出る湧水を大切に桶にため、それを洗米の際に放出して使っています。桶にためられた水を覗き込むと、それは青色に輝いている。

「水色」という言葉があるように、水は透明ではなく、青色を湛えていることに改めて気づくのです。経済活動と自然との共生を強く感じました。古くから続く蔵だからこそ、譲れないことがある。このような世界との繋がりが私たちに一層のやりがいをもたらし、また次なるステップへの意欲へと変わっていきます。

 

【日本酒蔵の承継へ】

 

 

古町糀製造所が創業して2年の月日が流れました。おかげさまで多くのお客様に囲まれ、糀に対する認知度も徐々に増していく手ごたえを感じている時期でもありました。

その様子を見てくれていた方から、「糀づくりにさらに密接に関わる酒蔵の仕事をしてみないか」というお話をいただきます。聞くと、その歴史は江戸時代にまでさかのぼる新潟の日本酒蔵で後継者を探しているとのこと。

今代司酒造が蔵を構えるのはJR新潟駅にもほど近い沼垂という地域です。もともとは醸造の町として栄え、最盛期には50件ほどの醸造蔵が立ち並ぶ地域でした。

しかし時代の流れには逆らうことができずその多くが既に廃業。今代司酒造も同様の運命を辿ろうとしているところでした。

 

承継後は、古くから残る蔵を整え、ラベルデザインも一新、商品としての酒質の向上にも努めるなど様々な取り組みを行いました。現在では酒蔵は新潟市内有数の観光蔵になり、海外への商品出荷や、有力デザイン賞の受賞など、その取り組みの成果も現われはじめています。

 

【味噌蔵の承継へ】

 

 

同じく沼垂地域に蔵を構える峰村醸造。明治期から続く、味噌と漬物の醸造蔵です。

食生活の西洋化や、人口の減少などにより、味噌や醤油という基礎調味料の消費量は右肩下がりです。峰村醸造のような規模の小さい地域の蔵は、その多くが存続の危機に立たされています。

2013年の暮れより、峰村醸造の仕事も引き受けさせていただくことになりました。

明治・大正期に作られた古い土蔵をリノベーションし、直売店としてお客様が訪れる空間を作りました。そして2日間で2万人が集まるにまで成長した「発酵・大醸し祭り」は距離もほど近い今代司酒造との共催で多くの方に楽しんでいただいています。

そのお祭りで生まれた目玉イベントが「味噌盛り放題」。

味噌は現代においても日々の食卓には欠かせないものであり、家庭料理の味でもあります。地域の皆様に愛され、地域で一番使われる味噌蔵を目指し、事業活動を続けています。

 

【連携と独立】

二つの醸造蔵は、古町糀製造所がその運営を引き受けて以降順調に業績も回復し、そして多くのお客様に愛される蔵に変わりました。

現在はそれぞれが独立した法人として、別個に事業活動を続けています。

それでも非常に近い距離感の各社ですので、日頃からその協業の動きなど議論は活発に行っています。

新潟と言う地で「糀」「日本酒」「味噌」という非常に近しい事業が連携をできる環境にある。このことは大変に大きな意味のあることではないかと思います。

糀や発酵、醸造のことは次第に一般消費者にもよく知られるようになってきており、これに興味を持ちその世界に触れてみたいと考える方も増えてきています。

私たちのように、これに携わるメーカーの立場としても、どういったものを伝え、提供していくことができるのか。そんなことを考えながら活動を続けています。

 

次のページでは「事業活動に取り組む想い」についてご紹介します。